父が30年かけて守った家は、私にとっては”価値のある実家”だった
実家があるのは、父が若いころに購入した地方の住宅地。
当時は新興住宅地として開発され、同世代のファミリーが一斉に入居したエリアです。
父と同年代の住民が多く、気づけばその多くが施設に入るか、お亡くなりになっていました。
最寄り駅まで車で20分。バスは1日4本。
スーパーは10年前に撤退してしまいました。
父がなくなり、実家を相続することになった私は、実家を地元の不動産会社3社に査定を依頼しました。
B社:現状のままでは売り物になりません。
C社:0円です。解体費用を負担してくれるなら引き取れますが。
3社の回答はばらついていましたが、共通していたのは「このままでは売れない」という事実でした。
【はじまり】“そのうち売ればいい”と思っていた
いざ実家の相続が発生しても、すぐに売却はしませんでした。
正直に言うと、感情面で売却することをためらっていたからです。
査定額に納得いかなかったのもありますが、すぐに売るのは親に申し訳ない気もしてきたんです。
父が30年かけてローンを払い続け、守ってきた家。
自分たち兄弟にとっても、子ども頃の記憶が詰まっている場所。
いざ売却となると、どこか後ろめたい気持ちがありました。
それに、売却に対して楽観的な気持ちがあったのも事実です。
家は古いですが、土地があるから売れば500万円くらいにはなるだろうと信じていました。
管理するにしても、固定資産税くらいなら大したことないと高をくくっていました。
だから売却は「急ぐことではない」と思っていました。
「いつかやればいいだろう、いつでもできることだ」と。
しかし、それが結果的に200万円の損失を招くことになるとは、このときは思ってもみませんでした。
「査定額0円」からはじまった2年間
私が200万円の損失を被ることになった「3つの失敗」をお話していきます。
【しっぱい①】査定額に納得いかず、とりあえず様子見

査定額0円という現実を突きつけられても、私はすぐには動けませんでした。
「この査定は正しいのか?」「別の不動産屋なら高く売れるのでは?」という気持ちが拭えず、結局「もう少し様子を見よう」という結論に落ち着きました。
相続直後の混乱もありました。
「葬儀・手続き・忌明け」と、慌ただしい日々が続いていたので、実家のことは落ち着いてからでいいだろうと。
実家のことを「今すぐ決断しなければならない問題」として捉える余裕がなかったのです。
【しっぱい②】“無駄な出費”を“管理費”という必要経費と錯覚

実家を持ち続けていることで、お金がかかっていることはわかっていました。
「固定資産税・火災保険・雑草の処理」ちょっとした修繕など。
頭の片隅では「もったいないな」と思う瞬間もありました。
それでも売却へと動けませんでした。
いつの間にか、「管理すること」が当たり前になっていて、それにかかるお金を、本当は無駄な出費なのに、「必要経費」として仕方ないものだと捉えてしまっていたからです。
むしろ、「お金をかけてちゃんと管理している」「何もしていないわけではない」という妙な納得感すら感じていました。
けれど実態は、決断を先延ばしにするための言い訳にすぎませんでした。
【しっぱい③】払えない額ではないので、決断を先延ばし

実家の管理にお金はかかっていましたが、正直、払えない額ではありませんでした。
年に十数万円。
「実家を持っているのだから、そのくらいはかかるもの」と思っていました。
生活を圧迫するほどではなかったし、実家を売るために解体などしようものなら、さらに大きな出費になる。
それが怖くて、現状維持を選び続けてしまったのです。
こうして1年が過ぎ、2年が過ぎました。
動かないことにかかるコストは、静かに、しかし確実に積み上がっていきました。
結果的に、2年間の放置でかかったコストは以下のとおりです。
| 費用項目 | 金額 |
|---|---|
| 固定資産税(2年分) | 約24万円 |
| 火災保険料 | 約8万円 |
| 雑草・ゴミ処理(近隣苦情対応) | 約15万円 |
| 水道の凍結・雨漏り修繕 | 約22万円 |
| 最終的な解体費用 | 約145万円 |
| 合計 | 約214万円 |
最終的に、売値は「10万円。ただし解体費はこちらが支払う」というものでした。
合計で「200万円」以上の赤字。
父が残してくれた家が、負の遺産に変わった瞬間でした。
後にお話ししますが、もし、2年も放置せず、最初からC社に0円でも引き取って貰っていたら、「約70万円分」の損失は回避できたことになります。
あとで知ったことですが、こうした「価値がゼロ以下になった不動産」を不動産業界では「負動産」と呼ぶそうです。
そして日本には、今この瞬間にも、同じ状況に置かれた実家が何百万戸とあります。
【しっぱいから学んだ教訓】買取業者の立場になってみて思うこと
さて、ここまでが弊社社員Nさんの実家をめぐる「しっぱい実録」です。
Nさんは、根拠なく「もっと高く売れるだろう」と思い込み、決断を先延ばしにし続けた結果、200万円もの損失を出してしまいました。
今これを読んでいるあなたが、Nさんと同じしっぱいをしないために、このしっぱいから得た教訓を伝えていきたいと思います。
今まさに実家を相続している場合はもちろん、これから相続が発生するかもしれない場合でも、ぜひ参考にして、Nさんの二の舞にならないようにしていただきたいと思います。
相続が発生したら、親への申し訳なさや思い出より先に、まず「このエリアに買い手がいるのか」を5分で確認することが、最大の損失回避策になる。
【なぜこうなったのか?】「エリア」を見ていなかった
200万円の損失を振り返って、Nさんが最初にすべきだったことはたった一つでした。
Nさんは、実家の「状態(築年数・間取り・設備)」ばかり気にしていました。
でも、本当に重要なのは「エリアの需要」でした。
どんなに状態のいい家でも、買い手がいなければ価格はつきません。
不動産の価値を決める要素は、大きく以下の2つです。
- 人口動態:そのエリアに人が増えているか、減っているか
- 空き家率:その地域で住宅が余っているか(全国平均13.8%を基準)
上記2つの「人口が増えているか減っているか」と「空き家率が全国平均13.8%を上回るか下回るか」の組み合わせで、エリアは4つゾーンに分類できます。
そして、ゾーンによって、あなたが空き家に対して取るべき行動が変わってきます。
【エリア4分類】あなたの実家はどのゾーンか?
4つのゾーンとは以下の通りです。

各4つのゾーンについて、詳しく解説していきます。
ゾーンA:需要旺盛エリア(人口増加✕空き家率低)
ゾーンAは、人口が増えていて、空き家率も全国平均(13.8%)を下回るエリアです。
三大都市圏の中心部や政令市が中心となります。
住宅需要が供給を上回っているため、「仲介」での売却が最も効果的です。
売却相場をきちんと把握して動けば、損をしにくいエリアと言えるでしょう。
ですので、焦って買取業者に持ち込むのはおすすめしません。
時間をかけて高値を狙う余裕があると言えます。
「急いで現金化したい」という焦りから買取業者に飛びつくこと。
仲介業者なら1〜2割高く売れるケースが多い。
ゾーンB:転換期エリア(人口減少✕空き家率低)
ゾーンBは、人口は減少しているが、空き家率はまだ全国平均(13.8%)を下回っているエリアです。
地方の県庁所在地や中核市の周辺部が多く該当します。
今はまだ住宅の売買は行われていますが、このまま人口減少が続き、空き家率が上昇すれば、ゾーンDに変わるリスクがあります。
先延ばしにするほど相場が下がる構造なので、多少値下げしてでも早期に売却するほうが、トータルの手取りは大きくなるでしょう。
「もう少し高く売れるかも」という期待が最大の敵となります。
「様子を見る」「もう少し待つ」。
待っている間に人口減少が加速し、流通量が落ちてゾーンDに転落するリスクがある。
ゾーンC:供給過多エリア(人口増加✕空き家率高)
人口は増加しているが、空き家率が全国平均(13.8%)を上回るエリア。需要と供給がミスマッチを起こしており、住宅が消化されないまま余っている状態だ。このミスマッチが起きる背景は主に3つある。
- リゾート・別荘型:軽井沢・ニセコ・熱海など。
- 大規模開発の供給過剰型:郊外ニュータウンなど。
- 移住促進×定着率低型:地方の移住人気自治体など。
別荘や二次利用の空き家が多く、通常の仲介では売買が発生しにくいエリアです。
仲介業者だけに頼ること。
このゾーンは空き家専門の買取業者にも併せて相談することが成功の鍵。
ゾーンD:縮退エリア(人口減少✕空き家率高)
人口が減少し、かつ空き家率が全国平均(13.8%)を上回るエリア。買い手が存在しない市場で、空き家が余り続けるなかで人口がさらに減っていく。
国勢調査(2020年)では全国1,719市町村の82.5%(1,419市町村)で人口が減少しており、そのうち空き家率が高いエリアの大半がここに該当する。
このゾーンで「売れるまで待つ」という戦略は機能しない。待てば待つほど建物は老朽化し、固定資産税と管理コストが積み上がる。早期撤退が唯一の正解だ。
具体的な選択肢は以下の2つです。
ゾーンDでの王道戦略。
街の不動産屋は基本的に対応してくれない。空き家の利活用を積極的に行っている専門業者に査定を依頼すると可能性は上がる。
解体費は木造30坪で100〜150万円が相場。更地後は固定資産税の軽減特例が失われるが、維持管理コストがゼロになる。
ただし、空き家の利活用に詳しい不動産会社に解体するべきかは確認必須。そのまま引き取ってくれる可能性もある。
また、自治体は営業してくれるわけではないので大きな期待は出来ない。
2023年4月施行。要件を満たせば土地を国に引き取ってもらえる。
審査に半年〜1年かかるが、「タダで手放せる」唯一の公的手段。
ただし、現行制度は要件がかなり厳しく、利用対象となる不動産はごく少数。
放置。「特定空家」に指定されると固定資産税が最大6倍に。
行政代執行(強制解体)になると、その費用が所有者に請求される。
自分のエリアを5分で調べる方法
「あなたのエリアはどのゾーンに該当するのか?」
それを調べる方法はすべて「無料」。
「5分」でできる、以下の3ステップで判定できます。
STEP1:人口動態を調べる(約2分)
使うサービス:統計ダッシュボード(総務省統計局)
- 「系列選択:人口・世帯→人口→総人口→人口増減率」「地域選択:市区町村を指定」で実家のある市町村を検索し、人口増減率を確認する。検索し、2010年→2020年の人口増減率を確認する。
- 同期間の全国人口減少率の中央値:5.5%超なら「人口減少率 高」「人口減少率 低」と判定
| 人口減少率 | 判定 |
|---|---|
| 5.5%超 | 人口減少率 高 |
| 5.5%以下 | 人口減少率 低 |
STEP2:空き家率を調べる(約2分)
使うサービス:統計ダッシュボード(総務省統計局)
- 「統計データを探す」→「住宅・土地・建設」→「住宅・土地」→「空き家比率」で実家のある市町村を検索し、「5(令和5年:2023)」のタブで空き家率を確認する。
- 全国平均13.8%を上回っていれば「空き家率高」、下回っていれば「空き家率低」と判定。
※住宅・土地統計調査の市町村データは、人口区1万5千人以上の市区町村が対象(約1,059市区町村)。小規模な町村は都道府県値を参考にする。
| 空き家率 | 判定 |
|---|---|
| 13.8%以下 | 空き家率 低 |
| 13.8%超 | 空き家率 高 |
STEP3:ゾーンを判定する(約1分)
| 人口動態↓ 空き家率→ | 低(13.8%以下) | 高い(13.8%超) |
|---|---|---|
| 増加・横ばい(0%以上) | ゾーンA (通常売却) |
ゾーンC (仲介と買取を併用) |
| 減少 (0%未満) |
ゾーンB (価格設定と時期を重視) |
ゾーンD (買取一択) |

「最初にエリア診断をしていれば、120万円は節約できた」
例として、Nさんの実家は以下のような結果になりました。
STEP2:空き家率 約25%(全国平均13.8%を大幅超)
判定:「ゾーンD」確定
この判定結果を知っていれば、「様子を見る」という選択肢はしていなかったとNさんは語ります。
売れる見込みがほぼないとわかっていれば、固定資産税・修繕費・管理費を垂れ流し続けるような判断はさすがにしなかっただろうと。
「0円です。解体費用を負担してくれるなら引き取れますが。」というC社の提案を選択肢して、すぐに解体の見積もりを取り、自治体の補助金(解体費の2分の1、最大50万円)を申請していれば、実質的な解体費用は「70〜80万円」に抑えられたはずです。
200万円の支払いが、70~80万円の支払いで済んだわけですから、「120万~130万円」の節約になっていました。
| 費用項目 | 実際に払った金額 | 早期に動いていた場合の 支払い金額 |
|---|---|---|
| 固定資産税(2年分) | 約24万円 | なし |
| 火災保険料 | 約8万円 | なし |
| 雑草・ゴミ処理(苦情対応) | 約15万円 | なし |
| 水道の凍結・雨漏り修繕 | 約22万円 | なし |
| 最終的な解体費用 | 約145万円 | 約70万円 |
| 合計 | 約214万円 | 約70万円 |
ゾーンDのエリアでも、動くタイミングと手順を間違えなければ、損失は最小化できます。
最悪の選択は「放置」すること。
【今日やること】3ステップで動き始める
ここまでお読みになったあなたには、今すぐ一つだけ動いてほしいことがあります。
それは、「STEP1」の人口の増減を調べることです。
>>STEP1のやり方を確認する
調べるのに5分もかかりません。数字を見るだけでOKです。
その数字が、あなたの実家の「処分戦略」を決める最初の根拠となります。
不動産会社に相談するのは、その後でも大丈夫です。
エリアを知らずに不動産会社に持ち込むと、向こうのペースで話が進んでしまいます。
自らで取ったデータを手元に持って交渉の場に臨むことが、損失を防ぐ唯一の方法です。
親が元気なうちに、実家のゾーンを確認しておく。
それだけで、あなたの「将来の200万円」が守られるはずです。







